わたしのT-shirts物語

 

 事務所の一角に、1着のT-shirtsがかけられて、ある。おととい届いたばかりの真新しいT-shirts。ネイヴィー地の左胸のところに、オリーヴの葉をくわえた鳥のマーク。うん、可愛い。顔を上げて、幾度も見てしまう。わたしはこのT-Shirtsに頬ずりしたいくらい、愛しいのだ。

 

 PEACE ON事務局。200枚限定で作った初回デザインのT-shirtsがなくなり、さてつぎはどうしようかと思案していた。前回T-shirts作りに携わったひとに今回も舵をとってほしいなどと相談するうち、わたしのこころはこう云うんであった、「作りたいんだったら、わたしから作らなきゃ」。ええ、作りましょう。

 月に1度の会員さんとの茶話会” PEACE ON CAFE”でプロジェクトを発足させ、会員メーリングリストでも呼びかけた。<T-Shirtsプロジェクト>、さて、なにからとりかかればいいのかしらん?

 そう、まずはテーマだ。これだけは譲れないもの、こんなT-shirtsあったらいいなと思えるもの。プロジェクトメンバー全員で一致したテーマは、環境を考えるもの、フェアトレード(公正貿易)、オーガニックコットン(有機栽培綿)。とんとんとん、と3拍子。PEACE ONのMission Statementにも適っているね。

 わたし達は、ボディ(T-shirts本体)から決めることにした。デザインはだいたいあたまのなかに構想していたから、それにはネイヴィー色のボディが好いかもしれないと、空想する。フェアトレードで且つオーガニックコットンのボディを、なるべく安く。インターネットで検索するも、これらの条件をクリアできるものはそうはない。オーガニックコットンのT-shirtsは数多あっても、フェアトレードの生地は圧倒的にすくなかった。妥協案も出つつ何時間も調べ上げたらば、しばしば顔をあらわすのはピープルツリーさん。やはりこの業界の大御所、さすがのお仕事に感服。そう、PEACE ONの1st T-shirtsもピープルツリーさんのボディだったのだ。問い合わせてみると、予定枚数200枚のうち、130枚はなんとか取り計らってくださり、残り70枚は今秋入荷分で補えるとのこと。ピープルツリーさんで卸す場合は本来なら何か月も前に予約すべきところを、店舗用のものをとくべつに分けてくださる、その対応に感謝したい。

 そしてデザインを決める段になった。わたしはプロジェクトメンバーに打ちあける、「ハニさんマークを、左胸にちょこんとつけたいんです」(「デザインについて」参照)。ヤッター、メンバーの賛成はえられた。ハニさんマークをね、モノにしたかったの。だってとっても素敵な、大すきなヤツなんだもの。きっとキュートに仕上がるはずだわ。

 よし、今度はプリント屋さん探し。インターネットで検索していて気になるは、スティールファクトリーさんというところ。電話をかけてみても好感触、さっそく行ってみることにした。下北沢のちいさなお店におじゃますると、入口に受付のようなスペースがあって、奥ではT-shirtsをプリントしている。こういうの、なんだかわくわくする。「環境負荷のできるだけすくないものを」というこちらの要望に、担当者さんはあたまを抱えられた。「環境にやさしいってどういうもの?」…環境にやさしいってどういうものだろう? わたしはすこし考えて答える、「プリント作業をするひとの健康に害のないものとか、よくない物質を使っていないものとか、着るひとの身体にやさしくて着心地の好いものとか」。「作ってるワタシなんかは、もうあきらめてますよ」なんていって、かれは笑う。「ほんとうに環境にいいものだったら、なにもプリントしないのがいちばんだけどね」と。ひとくちに環境を考えるといっても、課題は山とあるのかもしれない。プリントについて色いろと教えてもらった結果、“転写”という手法にいきついた。転写は、作るひとにも工程でも環境面は問題がすくなそうだけど、ただ1つ、廃棄しても土には還らないらしい。つまり、プリント部分は微生物たちは食べない材料でできている。しかしまあ、その他の点では納得がいったので、総合的に判断して、転写に決定。お店のかたとしばしイラク談義などする。「うちで失敗したもの、いっぱいあるんだけど新品は新品だから、イラクのこどもたちにあげるってのはどうかな?」という提案までいただいて、このプリント屋さんに決めてよかったとほっと頬が弛緩する。こころある職人さん、そんな印象。

 さて、ここからがちょっと厄介なのだ。ハニさんマークのオリジナル・データは今バグダッドの事務所にあるのだが、このイラク情勢、そうやすやすとはことは運ばない。なにせバグダッドでは、停電ばかりでメール環境が悪いうえ、米軍が家宅捜索といっては家々を襲撃するためPCなどは隠しておかないといけないのだから。依頼の連絡を入れて、じりじり、じりじり、と待つ日々がつづいた。プリント屋さんも「イラクのそんな現実が、まさか仕事に影響するとは思っていなかった…!」とこぼしてらした。イラク事情の悪化はたしかにイラク人の日常生活をむしばんでいるんだという、ひとつの実感。待つこと2週間、やっとやっとでデータは届いたんである! あとは、すこし加工して発注するだけ。

 そして届いたダンボール2箱。どぎまぎしつつガムテープの封をあけると、そこに居並ぶネイヴィーのT-shirtsにご挨拶。ハロー、どうぞよろしくね。

 

 インドの畑で農家の人びとを搾取せずに健康も周りの環境も害さずにていねいに作られた生地、未だ戦火のやまないイラクで描かれそして届けられた絵柄、それらがここ日本で出逢い、ひとつになっている。そしてわたしはこいつらを、これから日本でお売りするの。日本のみなさまはこれを着てお出掛けなんてしちゃったりするんだわ、ぎゅっとつまった物語を左胸に踊らせて。ああ、なんてファンタスティックでピースフルなT-shirtsができあがったのでしょう! 世界と繋がってる。これぞPEACE ON的T-shirts、そう思うんであります。やったね、PEACE ON!

 この愛らしいT-shirtsちゃん。イラクのハニさんや現地スタッフのサラマッドにプレゼントしたら、かれらはよろこんでくれるかしら? ええ、きっと。みんなで着ましょう、イラクのあのひとも、日本のあなたも.......

(高瀬香緒里)