(02/21)
夕方5時頃麗奈さんと、アンマン在住のイラク人アーティスト、ハジム・アルブスターニーさんのアトリエを訪ねる。ハジムさんは1991年にイラクから亡命した画家で、コミック雑誌やイラスト、油彩などの制作を行っているそうだ。快く私たちをアトリエに迎え入れてくれたハジムさんは、所狭しと並べられた彼の作品の数々を次から次へと解説してくれた。目を大きく見開き身振り手振りを加えて真剣に話す様子は、本当に絵を描くのが好きで好きでどうしようもないといった感じで、気が付くとすっかり彼の絵の世界の住人になってしまっていた。
ヨーロッパ芸術の技法を存分に活かし、自由奔放でシュールリアルな作品が多いが、貿易センタービルと両性具有の神などが混在する9・11をテーマに制作した作品をはじめ、今日の世界の現象に対峙してイラク人である自らのルーツを探求することにより独自の神話的世界を構築し、そこから世界の絶望的な対立、怒り、憎しみを、自己との葛藤のなかで乗越え、人間的な善悪の彼岸にある愛と救いを描き出そうとするハジムさんの姿勢、そしてその途方もない力強さに圧倒される。メソポタミアの豊かな文明を持つイラクには、才能にあふれる芸術家が多くいるのではないかと思っていたが、まさかこんなに早く出会えるとは。
ハジムさんはひとりの芸術家として、ふるさとイラクへの郷愁とサダム政権下における苦悩、戦争に対する憤りと独裁政権崩壊の喜び、そして混乱の色合いを極める現在のイラクへの想いと未来のイラクへの希望など、複雑に絡み合う自己の感情を真正面から受け止めてきたのであろう。彼の作品から、またそれを情熱的に解説する彼の様子から、表現することの美しさ、つまり人間として生きることの意義に改めて気づかされた。イラク・アート・プロジェクト。こんな素敵な企画に協力することが出来て本当に光栄である。
画家の麗奈さんと、やはり父親が画家である私が相手ということで話があったということもあるかもしれないが、お互いあまりに話しに夢中になってしまい気が付くと深夜2時。いつの間にやら外では冷たい夜の雨が降っていた。
2月22日、前回お世話になった薬剤師のHさんの薬局を訪れる。うまく薬を買うことが出来れば今夜にもバグダッドに向けて出発できるかとも思っていたが、今日はイスラムの休日で抗がん剤等特殊な薬は買えないとのことなので、翌日数量を決めて購入することに。
ちょうどいいタイミングで、バクダッドで医薬品の支援を続けているJVCの原さんから電話があり、必要な薬の種類等を聞く。相変わらずバグダッドの病院では抗がん剤が不足している状況が続いている。PEACE
ONは医薬品支援が中心ではないとはいえ、前回同様いくつかドナーさんのリクエストがあるので一部予算はとってはある。しかし当座とはいえひとつの病院に必要な抗がん剤を一か月分一通りそろえるだけでゆうに100万円はかかり、それだけでPEACE
ONの今回支援分の予算が尽きてしまうほど抗がん剤というのは高い。しかも最近ドル安のせいもあってか薬品の値段が一斉に12%ほど上がっているのでなおさら頭が痛い。限られた予算と活動計画のなかでどこに効果的に寄付金を使うか。前回お世話になったアラブの子どもとなかよくする会の西村さんも言っていたが、この程度の抗がん剤では焼け石に水ともいえる。支援するということはまた、どこかを切り捨てなければいけないという残酷な一面もある。早速支援のジレンマに陥ってしまうが、何もしないよりははるかにましではないだろうか。たとえ一人でも助かる命があるのならば、そして喜ぶ人がいるのならば。
薬剤師のHさんと打ち合わせがてらイラクの未来について語り合う。クウェートで生まれた彼は、イラクの再建は複雑な民族や宗教間の関係から決して一筋縄ではいかないだろうと懸念していた。