イラク‐ナツメヤシと農婦
IRAQ – Date Palm and Farm Woman(Dec,2015~)
*ナツメヤシの手漉き紙を使用した新シリーズ
イラク人画家Hani Dallah Aliの新作のメインテーマは、「ナツメヤシと農婦」です。
ナツメヤシは、アラビア語でナハル、英語でDate Palm(果実はデーツ)といって、乾燥させた実が食用になります。イスラームのラマダーン(断食月)の断食明けに最初に食すのがナツメヤシであり、イラクをはじめ中東世界では大抵の家庭で常備しているものです。干柿のように甘く柔らかく、ミネラル、ビタミン類も豊富で砂漠の民には欠かせない完全栄養食として古くから食されてきました。日本でも、ドライフルーツとして、またお菓子の材料として近年よく目にするようになりましたが、以前からお好み焼きのソースの甘味料としても広く使われてきました。
ナツメヤシの根際に立ち樹上を見上げると、天球のように開いた葉は灼熱の日光を優しくやわらげて、樹下ではオレンジやザクロなどの果樹園が豊かに広がります。イラク七千年の歴史の中でナツメヤシは多くの詩歌にも登場し、「イラク人はナツメヤシの子宮の中で守られてきた」とまで語られるほど人々はナツメヤシを愛してきました。長引く戦争はナツメヤシ農家に壊滅的影響をもたらし、かつての世界有数の輸出国も今では輸入に頼らざるを得ないという屈辱の現実に晒されながらも、イラクの人々の心にはいつもナツメヤシが明るく輝いているのです。
「生命の樹」とも呼ばれるナツメヤシは、故郷の大地とそこで生きる人々を結びつけてきた貴重な存在であるということを、Haniは戦争によって故郷イラクから引き剥がされ、時代の混沌に投げ出されるなかで改めてその意味の大きさに気が付きました。人は生まれ育ってきた土地と分かちがたく結びついていて、そこから離れて生きるということは、たとえ安全な生活が保障されていたとしても、魂のなかで何かが決定的に損なわれてしまうということを。
避難生活が長引く中でその想いは静かに熟成していきました。イラク人にとってのナツメヤシの意味を再び見出すと、それを育んできた農婦の美しい姿が光と共に現れました。その想いはやがて、すべての命を慈しみ限りない愛を与え続ける母なるものへの礼賛、そして世界ぜんたいに向けた平和への祈りにまで高められていきました。
この「ナツメヤシと農婦」のテーマを追求する中で、Haniはナツメヤシの手漉き紙と出会います。かつて日本滞在時に和紙に感銘を受けてから、彼は作品に和紙をよく使うようになり、手漉き紙への関心を高めてきました。ヨルダンの首都アンマン郊外のイラク・アルアミール村にある女性だけが働く工房で、ナツメヤシの葉による手漉き紙を作っていると知り、自身の作品にも使おうと特別サイズのものを注文しました。彼自身が紙漉きに参加しました。
この度の展示では、「ナツメヤシと農婦」をテーマに、ナツメヤシの手漉き紙を使った小品をたくさん描いてもらいました。紙の表面からナツメヤシの葉がそのまま浮き出ている個所もセンス良く作品の一部として取り込んで、カラーはアクリル絵の具の他に天然素材の塗料も用いています。色紙を台紙にしてお値段もお求めやすく設定した「イラク‐ナツメヤシと農婦」キャンペーンとしてお届けします。
平和と戦争への道の分かれ道で揺れ続けるここ日本でも、イラクの人々と大地が幸福に結ばれていた記憶をのびやかに描いた自由な魂による表現を多くの人に知ってもらいたい。そして、作品に込められた切なる平和への祈りと、この困難な時代を共に生きぬく決意に満ちたしなやかな希望の光を、日々の生活のなかでも感じてもらえたらこの上ない喜びです。
~Web-Gallery~
作品/Art Works
Hani Dallah Ali 2015
Natural colour & Acrylic on Handmade Paper
22 x 20 cm
3万5千円(色紙額付き) 3万円(額なし)
*ご購入を希望される方はメールでご連絡ください。
office(アットマーク)npopeaceon.org
*このシリーズは完売いたしました。ありがとうございます。